東京高等裁判所 昭和57年(行ス)21号 決定 1982年11月18日
抗告人(申立人) 榊原義雄
相手方(被申立人) 東京都十一市競輪事業組合
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。しかし、当裁判所も抗告人の本件執行停止の申立は、理由がなく棄却すべきものと思料するものであつて、その理由は原決定と同一であるから、これを引用する。
よつて原決定は正当であり、本件抗告は理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 田尾桃二 内田恒久 藤浦照生)
(別紙)
抗告の趣旨
一 原決定を取消す。
二 抗告人からなした東京地方裁判所昭和五七年(行ク)執行停止決定申請は理由がある。
との決定を求めます。
抗告の理由
第一事実に対する甚しい誤認について
<1> 本件申立に対する却下理由は、全面的に誤つている。その根本は、抗告人の分限についての疎明を十分に審査することなく、「日々雇用」と、誤認したことにある。
<2> 右、誤りの箇所は、却下決定理由書(以下、認定と云う。)3頁一行目「被申立人が」から、3頁終りから五行目「身分を喪失するものである」までにある。
<3> 本意見書第三、に記述した如く、上記の決定は「あらかじめ当事者(抗告人)の意見をきかなければならない。」のに、之を怠り、疎明全部の提出を待たずして行つたものである。
<4> 右「認定」は「むしろ却つて本件疎明によ」る、としているが、抗告人提出の疎明(以下、単に疎明と云う)は、その凡てに於て抗告人の分限を、「期限の定めなく継続して任用され、永年勤続の正規の従事員(以下、登録者と云う。)である」ことの熱心な主張で貫かれて居る。疎明を誤認することによつて、前記の「認定」を生じたものと考へられる。
<5> 本件、却下決定の理由の全部にその「認定」の根拠とした疎明の内容を特定せず、莫然と「疎明によれば云々」と表示されているので、抗告人は理解に苦しみ、反論するのに困難を重ねた。
二 <1> 上記一ノ<1>の「認定」にも根拠が具体的示されていない。しかし、その内容が疎明(甲2号証)「東京都十一市競輪事業組合従事員関係程規」(以下、従規と云う。)5頁(採用の手続)第七条の内容とよく似ている。
<2> 若し、之を根拠とした「認定」であるなら、抗告人ら登録者の雇用の実体の検討を怠つた為めに生じた甚しい誤認である。「従規」7条、8条は新規雇用の「採用の手続き」であつて、既に採用され、永年勤続している者え適用される手続きではない。
上記、「認定」が極めて現実的でなく実行出来ないことを、次に説明する。
三 <1> 上記「認定」の前半は登録者を被申立人が採用する場合は、開催の都度、「準備日」及び「開催日」毎に、出勤票の交付又は採用通知の送付を行つている。としている。
<2> 「開催日」に採用通知を送付して、どうして開催が出来ると云うのか。京王閣競輪の始業は十時半であるが、一部は「早出」出勤で十時前から出勤している。之に間に合わないのみではない。登録者の中には千葉、埼玉、等の近県居住者もいる。この人達は翌日の開催にも出勤は出来ない。
<3> 「準備日」は開催日の直前の一日だけで、通常十時半から始業、十四時半頃に業務を終了する。この日に採用通知を出しても、翌日の開催には就労することは出来ない。
<4> 右のことだけでも上記<1>の「認定」の誤りであることは、明白である。
四 <1> 上記一ノ<1>の「認定」後半の要旨は次の如くである。
「出勤票又は採用通知書に基く就労の終了により当然従事員としての身分を喪失する。」
<2> ここに云う、「出勤票又は採用通知に基く就労」の意味は不鮮明だが、之を日々雇用だから「就労の終了」により「身分を喪失する。」の意とするならば、「出勤票」「採用通知」に日々雇用の表示がないのに、何を以つて、日雇とするので、あるか。その理由を示さなくてはならない。
<3> 「出勤票」は被申立人が従事員(登録者と応援者)の出勤を確認する事務の為の伝票的なものであり、「採用通知」も、雇用契約書としては、不完全すぎ、共に、雇用契約書ではあり得ない。
<4> 「忘票届」と云う制度があつて、通常、「出勤票」がなくても、就労出来る。
<5> 疎明(甲一号証)は被申立人が抗告人の勤続20年を表彰したものである。之は「従規」の規定により行われたものである。日雇に永年勤続の表彰制度が、ある筈はない。この一事を見ても、上記一ノ<1>の「認定」の後半も、事実を誤認したものであることは明白と云える。
五 <1> 抗告人ら登録者が日雇でないことは、右四、の説明で明らかであるが、更に期限の定めなく継続して任用され、就労している事実について説明をする。
<2> 「従規」28頁に登録者の「定員」が示されている。登録者の定員総数は一、六三八名。
(「従規」は登録者に限り適用され、応援者には就業規則も設けられていない。)
<3> 一、六〇〇余名の尨大な数の登録者が所定の開催に出勤するのは、登録者としての身分があり、雇用条件が確定しているからである。日雇であつて雇用が確定せず、登録者の身分も喪失しているなら、誰れが高額の交通費を支払つて集合するであろう。
<4> 「従規」44頁に「職務分類表」がある。「職種」約62が示されている。一、六三八名もの人員を職種・職場に「開催日毎に」編成していたのでは到底、業務の開始が出来ない、ことは何人にも容易に判断出来るであろう。
<5> 「準備日毎に」も出来る筈がないこと次の如くである。「従規」21頁7条は開催に必要な「基本計画」を「開催前に」「所属長」が「定めなければならない」と規定している。
<6> 右、の「基本計画」は単に人員配置だけでなく「人員配置に要する所要額」も算出するものである。日々雇用で出・欠の定まらない就労者を対象に行い得る作業ではない。
<7> 上記の「所属長」とは、登録者は一定期間、「職場」(所属の云いでもある。)を固定されている、その「職場」の長を云う。抗告人の場合について云へば、昭和54年4月1日から昭和57年6月21日まで、約3年間、略称「四千」に所属し、職種は守衛である。(疎明、甲第四号証)
<8> 職種は滅多に変らず、守衛職を任命される以前は28年間警備員であつた。
(前、施行者東京都営からの通算)
六 <1> 上記、「認定」(3頁終りから六行目)は「就労の終了により当然従事員としての身分を喪失する」としているが、之が誤認であること、次の如くである。
<2> 登録者は「就労の終了により身分を喪う」ことはない。登録者が、その身分を喪う場合等についての「従規」の規定は左記の通りである。
<3> 「従規」5頁10条には登録者が自から退職するときについて、「登録取願」を退職の「日前14日までに」提出すること。10頁31条には遅刻・早退には「あらかじめその旨を届け出なければならない」とし、5頁9条の欠勤届の規定は、既に採用され永年勤続している登録者にも、適用されている。更に「従規」21頁8条は欠勤に対し、登録者にとつては極刑に当る首切りの制裁を加へることを定め、8条の(1)(2)(3)は全部、欠勤防止の規定である。
<4> 登録者が、その身分を保持する為めには、欠勤の自由は厳しく制限されている。
<5> 「従規」6頁10条3に被申立人が登録者を解雇する場合には、被解雇者に対し、一ケ月以上前に理由を付して予告しなければならない、と定めている。
<6> 以上、どの規定を取つて見ても既に、身分を喪つている者えの規定ではない。登録者が「就労を終了」すれば身分を喪うとした「認定」の誤りを示すものばかりである。
七 <1> 右、六の説明は「従規」から見たものであるので、更に登録者の雇用関係の実体から、賃金の支払われ方、共済会(「従規」16頁64条)に強制加入させられていることについて陳述して、登録者の身分が日々雇用でないことを一層明らかにする。
<2> 賃金は毎日支払われたことは過去には全くない。将来にも、一、六〇〇人以上の従事員に毎日支払い得るものではない。
<3> 賃金の支払は、六日間通し開催の場合は、その最終日に、前・後節にわかれての開催には、節毎の終りの日に行われる。
<4> 右の事実も、「認定」の云う「就労の終了」、即く、「身分の喪失」があり得ないことを示すものである。
<5> 共済会は、登録者のみ、対象とする共済制度であつて、応援者の加入は認められていない。登録者は強制加入で、全員が共済会の会員である。
<6> 会費は賃金(一時金を含む)の千分の十。毎開催、天引控除されて支払う。
<7> 共済会は発録者相互間の親睦・病気・災害見舞、慶・弔に対するお祝い、見舞い等の他金融もし、離職慰労金の支給機関でもある。
<8> 右、共済会は設立以来、新・旧通算すれば30年にも及んで存在し、存立している。このことは、登録者が期限の定めなく継続し雇用されていることを明らかに示している。登録者が常用でないならば、共済会の設立もあり得ない。
<9> 離職慰労金制度の存在も、日々雇用でないことを示している。
八 <1> 「認定」3頁終りから二行目「登録者を」から、4頁二行目「疎明はない」までに、ついて。
<2> 「認定」は、ここで被申立人が抗告人を「開催の都度」採用する義務がないことを「一応認められ、」るとしている。しかし、全疎明のどこにも、このような「認定」の根拠となるものはない。
<3> 右の「認定」に対する反論は、「認定」の根拠を特定した開示を待つて行う。
<4> 前、七までに見て来たように、抗告人を含めて、登録者は常用であるから被申立人は、数十年の永きに亘つて行つて来たように、「開催の都度」抗告人を雇用する義務がある。義務なしとする理由は全くない。
九 <1> 右、八ノ<1>の「認定」に対する反論の意味を含めて、之迄とは違つた角度から、抗告人ら登録者の身分が常用者であることを、陳述する。
<2> 抗告人ら登録者は、被申立人との間で日々雇用の契約をした事実はない。抗告人は本年6月21日まで31年間余に亘つて一ケ月の空白もなく継続して任用され、就労して来た。
<3> 「従規」4頁5条にも「引き続き従事員として採用するものを」登録する、と定めている。
<4> 「従規」によつて次記の諸制度、取扱いが明確に定められている。
登録。登録の取消及び保留。制裁。欠勤・早退・遅刻の取扱。
公民権行使。年功序列の賃金体系。表彰(主に永年勤続の)。
職階・昇格。夏・冬の一時金支給。苦情調整会議。共済制度。
離職慰労金の支給。健康診断。伝染病届出の義務。等々。
<5> 「従規」所定外には離職勧奨の制度も設けられている。
<6> 以上、どの制度、どの取扱いを見ても、登録者の身分が常用者であることを示すものである。
十 <1> 「認定」4頁二行目「申立人は同年六月」から、四行目「身分を喪失している。」までについて。
<2> 右の「認定」も日雇を前提とした誤認に基くものである。誤つた「認定」である。
<3> 以下、念の為、抗告人が登録者としての身分を喪う場合を雇用関係の実体に即して説明する。次の如くである。
<4> 登録者自から退職する場合は、前述した如く、退職希望の「日前14日に」登録取消願いを被申立人に提出する義務がある。
之に、伴つて離職慰労金、共済会から給付金等の交付申請と退職所得申告書などの提出も、しなくてはならない。
抗告人は右の一切を提出せず離職慰労金等の受領もしていない。
<5> 被申立人は右の交付金の供託をしていない。
<6> 被申立人が一方的に登録者を解雇(登録取消)をする場合は、前述の如く、理由を付して、解雇予告をしなければならない。
<7> 抗告人は右の予告を受領していない。又、予告がないばかりでなく、被申立人からの解雇の意志表示は全くない。
<8> 「従規」14頁52条に「ユニホームの着用及び記章等のはい用」についての定めがある。抗告人も、之等を被申立人から貸与されて居り、現在も保持している。被申立人から返還の請求は、無い。
<9> 以上のことから見ても抗告人は、登録者の身分を喪失していない。
十一
<1> 「認定」4頁四行目「申立人に対する」から、六行目「停止すべき処分がない」までについて。
<2> 右の「認定」は抗告人の身分を日々雇用としたことを、明示してなされている。従つて、この「認定」が誤りであることは抗告人の之までの陳述によつて明らかである。
<3> 出勤停止処分のあつたことは厳然たる事実である。抗告人は本年七月開催以降、今日に至つても、被申立人の拒否により、出勤・就労が出来ないでいる。
<4> 被申立人の抗告人に対する出勤停止処分が不法行為であることは、本案訴状に詳述した如くで、無効な処分である。よつて、抗告人と被申立人との間には出勤停止処分以前の労働契約が存続している。
<5> 抗告人が「被申立人の従事員たる身分を喪失している」とする「認定」は誤つたものである。
右出勤停止処分が不法行為であることについては前述の如く、本案訴状に詳述したが、次に、ここでも簡単に陳述をする。
十二
<1> 抗告人に対する被申立人の出勤停止処分の不法行為であることについて。
<2> 抗告人に対し、右処分の根拠として、被申立人が示したことは、唯一つ、離職勧奨制度(疎乙七号証)に基く、本年5月6日付の離職期日の指定(疎明、甲五号証)による、と云うことのみである。
<3> 抗告人の身分を日々雇用としたものでないことは、本案訴状4頁、終りから4行目、一に明らかにされている。
<4> 右の事実は被申立人も、その意見書4頁、終りから五行目で認めている。
<5> 「従規」8頁にある制裁の規定に20条(2)「採用停止」の定めがあるが、その内容は次の如くである。
「(2)採用停止」始末書をとり、7日以内の採用を停止する。又、同条2項には、右の制裁は「その旨を記載した書面を当該従事員に交付して之を行なう。」と定められている。
<6> 抗告人は既に28日以上、出勤を停止されている。始末書はとられていない。「その旨を記載した書面」の交付も受けていない。
<7> 従つて、抗告人に対する出勤停止処分は「従規」による処分ではなく、抗告人の勤務成績に問題がないことを示すものである。
<8> 更に、被申立人が離職勧奨制度を、その適用によつて定年制とした地公法27条2に違反する不法行為であることを示すものである。
第二適用条文の誤りについて。
(一) <1> 「認定」4頁五行目「これがあることを」から八行目「却下を免れない」までについて。
<2> 「認定」は「効力を停止すべき処分がない」としているが、事実に対する誤認に基いての判断であつて、誤りである。
<3> 次に、「行政事件訴訟法二五条三項の「本案について理がないとみえるとき」に該当する、としているが、本件申立に対する決定の根拠としての「認定」は「一応認められ」たものにすぎない。(4頁一行目)
<4> 「一応認められ」は、その「認定」が不確定、不確実なことの表示であつて、上記、25条3の「みえるとき」に相当するものではない。
(二) <1> 本件申立に対し行政事件訴訟法(以下、行訴と云う)二五条の適用は誤りである。
<2> 抗告人が提出した本案訴状による訴えは「出勤停止処分無効確認賃金支払い請求事件」である。
<3> 本件申立は右、訴状による訴えを前提とし、基礎としている。
<4> 行訴36条及び38条が適用さるべきである。
(三) <1> 抗告人が行訴36条、38条を援用する理由は次の如くである。
<2> 出勤停止は行政処分である。之が行使は法規等に定められた手続によつて行われるべきで、実力行使による出勤停止は、正しい行政処分ではなく無効である。
<3> 被申立人が今、尚強行し続けている抗告人に対する出勤停止処分は右の実力行使に当るものである。
<4> 本件申立の疎明とした甲10号証、昭和57年7月16日付の催告状に於て抗告人は被申立人に対し次のことを申し入れた。
私(抗告人)に対する出勤停止処分につき、雇用主の立場から、合理・合法性を開示して欲しい。雇用の立場からの理由であつても、理解することが出来れば潔ぎよく離職する。私は争いに入ることを避けたいと熱望している。
<5> 被申立人は右の催告に答えず、又、何の意志表示もせず抗告人に対する出勤停止処分を強行しつづけている。
<6> 抗告人の心情としては右の処分の仕方は極端すぎる暴力的なものと感じられ、万人が不法行為であることを認めざるを得ないものと考へ、無効確認を訴え、38条3による執行停止を求めたものである。
第三違法な決定であることについて。
一 <1> 本件申立に対する決定は行訴25条5の定めに違反した決定である。
<2> 抗告人に対しては「あらかじめ当事者の意見をきかなければならない」のに全然意見をきくことなく行われ、その決定を送達した。
二 <1> 本件申立に対する決定は、行訴25条4「第二項の決定は疎明に基づいてする」とあるのに、之を怠つてなされた。
<2> 抗告人は本件申立に関する疎明資料を昭和57年9月8日、東京地方裁判所民事11部書記官室に提出するに際し、疎明(甲八号証)に「証拠目録・その説明書は第一回公判期日迄に提出します。」と記した符箋をした。
(そのときの公判(口頭弁論)期日は本年10月12日と指定されていた。)
又、本案訴状3頁終りから5行目以下に、疎明(甲2号・甲3号証)の説明に於て、抗告人らの勤務条件・その実体等を詳述する、と記述してある。
それにも拘らず、この二つの抗告人の意志表示を無視し、右の証拠説明の提出を待たず、之を審査することなく、決定が行われた。
三 本件申立に対する決定は、以上二つの違法を犯している。従つて、この点だけからも、取消さるべきものである。
第四その他について
一 <1> 「認定」4頁終りから3行目「申立人は本案の」から5頁一行目「理由がない」までについて。
<2> 「認定」は抗告人が「本案の被告同様被申立人を誤つている。」と云うが、どのように誤つているのかを示していない。
<3> 抗告人は関係弁護士に、右の「認定」について尋ねたが、右の表示だけでは、正しい(「認定」が云う)「被告」・「被申立人」を知ることは出来ない、と答えた。弁護士にも理解出来ない、右「認定」の表示は、無いに等しいものである。
<4> 抗告人は被申立人の不法行為による出勤停止処分で生存権を脅かされ、必死に之と斗つている抗告人に対し、弁護士にも理解出来ない「認定」を表示する、「認定」者には、基本的人権を守り尊重する精神が欠除していると抗告人には考へられる。
<5> 上記「認定」を抗告人は理解出来ない。従つて、受容しない。
二 <1> 「認定」5頁一行目「以上の理由で申立の趣旨第一項は理由がない。」について。
<2> 抗告人は、これまでの陳述によつて、「以上の理由」が誤つていることを明らかにした。従つて、「理由」がない。とする、右判断も、誤つたものである。
三 <1> 「認定」5頁二行目「また申立の」から「主文のとおり決定する。」までについて。
<2> 右については、逐条的に反論する必要はないと思料する。全部を否認し、全部について争う旨の意志表示に止める。
四 東京地方裁判所昭和五七年(行ク)第五七号執行停止申立事件に対する同所がなした決定に対し、抗告人は上記の如く逐条的に反論を重ね次のことを明白にした。
一 甚しい事実の誤認を根拠としていること。
二 行訴25条を適用していることの誤り、同法36条を適用、同法38条を準用すべきこと。
三 抗告人(申立人)の疎明全部の提出を待たづして決定されたこと(25条3に違反)
四 行訴25条5に違反していること。
以上の理由により前記、本件申立に対する決定は取消されるべきものですから本件、抗告状の抗告の趣旨の如くご決定を求めます。
以上。
原審決定の主文及び理由
主文
一 本件申立をいずれも却下する。
二 申立費用は申立人の負担とする。
理由
一 申立人の申立の趣旨及び理由は、別紙「執行停止決定申請書」及び「訴状」各記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙「意見書」記載のとおりである。
二 申立人は、出勤停止処分を受けたとして申立の趣旨第一項の申立をなすものであるが、本件全疎明によるも同処分を申立人が受けたものと認めることができず、むしろ却つて本件疎明によれば、申立人は昭和五七年六月二一日に被申立人の登録従事員(「東京都十一市競輪事業組合従事員登録簿」に登録された者((以下「登録者」という。))から採用された従事員をさす。)であつたが、被申立人が登録者のうちから従事員を採用しようとする場合には、競輪開催の都度その準備日及び開催日毎に出勤票の交付又は採用通知書の送付(以下この二つを「出勤票の交付等」という。)を行い、登録者が右採用に応ずる場合には右出勤票又は採用通知書を被申立人に提出して就労することになつていること、したがつて右により採用された従事員は、右出勤票又は採用通知書に基づく就労の終了により当然従事員としての身分を喪失するものであること、被申立人は申立人に対し、昭和五七年六月二一日の就労終了以後出勤票の交付等を行つていないこと、登録者は他の者に優先して従事員に採用されるものではあるが、被申立人において、登録者を競輪開催の都度必ず採用しなければならないものと義務づけられているものではないことが一応認められ、右認定を左右するに足りる疎明はない。右によれば、申立人は同年六月二一日の就労終了とともに被申立人の従事員たる身分を喪失しているものであるから、申立人に対する出勤停止処分もありえないものというべく、これがあることを前提とする申立の趣旨第一項はその効力を停止すべき処分がないばかりでなく、行政事件訴訟法二五条三項の「本案について理由がないとみえるとき」に該当し、理由がないものとして却下を免れない。
なお、申立の趣旨第一項については、申立人は本案の被告同様被申立人を誤つているものというべきであるが、この点は同法一五条に救済規定もあるところからさておいても、以上の理由で申立の趣旨第一項は理由がない。
また、申立の趣旨第二、三項については、そもそも同法二五条所定の行政処分執行停止申立の対象たりえないものというべきであるから、いずれも不適法として却下を免れない。
三 以上のとおりであるから、申立人の本件申立はその余の点について判断するまでもなくいずれも失当としてこれを却下することとし、申立費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(別紙)
執行停止決定申請書
申請の趣旨
一、被申請人が昭和五七年六月二十一日に行つた申請人に対する出勤停止処分の執行は、本案判決確定まで、これを停止する。
二、被申請人は右執行停止中、申請人を京王閣競輪場の登録従事員、守衛として、就労させなければならない。
三、被申請人は申請人に対し、昭和五七年七月以降、本案判決確定まで毎月末日限り、金八、二三〇円に、その月の京王閣競輪開催日数(準備日を含む)を乗じた金員を支払え。
との裁判を求める。
申請の理由
一、次記、諸事項についての申請人の説明・意見の陳述は、この申請書と共に提出した、訴状を援用する。
<1> 当事者
<2> 事由を示さない被申請人の申請人に対する出勤停止処分。
<3> 右、処分が不法行為であること。
<4> 申請人の分限・勤務条件の基準とその実体。
<5> 申請人は心・身共に健全、十分勤務遂行能力があること。
<6> 被申請人は申請人に対し予告することなく、突然、出勤停止、賃金不払の処分をした。この処分に対し、申請人には全く準備がなく、時間の経過するに従い生活の苦しみが加重していること。
二、申請人は昭和五七年八月二六日東京地方裁判所に、右行政処分取消の訴えを提起したが判決が出されるまでには通常長い年月がかかる。京王閣競輪の就労による収入を失つた申請人(扶養二人)らの生活は日を重ねるに従つて、その苦しみの度が深刻になつているので、執行停止を求める緊急の必要がある。
よつて、申請の趣旨記載のご裁判を求める為、本申請に及んだ次第である。以上。
(別紙)
訴状
請求の趣旨
一、被告が昭和五七年六月二一日に行つた、原告に対する出勤停止処分が無効であることを確認する。
二、被告は昭和五七年七月以降毎月末日限り、金八、二三〇円にその月の京王閣競輪開催日数(準備日を含む)を乗じた金員及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び第二項につき仮執行の宣言を求める。
請求原因
(当事者)
一、原告は被告に登録従事員(以下登録者と云う。)として任用され、警備・守衛の職に当つている一般職の地方公務員である。
二、被告は東京都下、十一の市によつて構成されている一部事務組合で、その事業は、競輪開催のみである。
右、十一の市は八王子市、調布市、町田市、武蔵野市、昭島市、小金井市、小平市、日野市、東村山市、国分寺市、青梅市である。
(原告の分限・勤務条件の基準、その実体等について。)
一、被告の企業に任用されている企業職員(以下、従事員と云う。)は大別して登録者と応援者とによつて構成されている。登録者は永年に亘り期限の定めなく継続して任用されている、正規の従事員である。原告は東京都営の時、後楽園・京王閣両競輪場に昭和二十六年五月任用され、昭和四十一年四月、被告が京王閣に於て、競輪事業を施行するに当り、被告と訴外東京競輪労働組合(以下、競輪労組と云う。)との間に締結された労働協約に基き被告に任用された。
原告は東京都営のとき期限の定めなく継続して任用され、被告の企業に於ても創業時から継続して任用され昭和47年10月11日には勤続20年の表彰を被告から受けた。
上記、労働協約は、被告が東京都営の勤務条件を全面的に引継ぎそれを下廻ることのないことを約定したものである。
二、登録者は臨時・日雇ではなく、反復任用されているものでもない。原告は昭和26年5月以来、31年余に亘つて毎月必ず任用されて来た。右の事実、及び勤務条件の基準、その実体等については、証拠として前記表彰状(甲1号証)、被告から示されている勤務条件等の基準、東京都十一市競輪事業組合従事員就業規準(甲2号証)と東京都競走事業従事員就業規準(甲3号証)を提出し、その証拠説明に於て詳述する。
(事由を示さない出勤停止処分)
一、昭和57年6月21日(京王閣六月開催最終日)に被告は、原告に対し、予告なく突如、出勤票(甲4号証)の交付をせず7月開催に出勤・就労不能の処分をとつた。このことは原告の競輪場勤務31年余の間に全く前例がないことである。就業規準にもない処分である。
二、右の処分は原告の死活にも関する不利益処分であつて、原告の意に反するものであることは自明である。かかる場合について、地方公務員法(以下、地公法と云う。)第49条第一項は「処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない」と定め、就業規準第20条2項にも同様の規定がある。
被告は、右の定めに従うことなく、単に、出勤票を交付しない、と云う方法で、それも全く予告することなく出勤停止の処分をしたのである。
(地公法第49条2項による原告の請求を被告は無視した。)
一、深刻なシヨツクを受けた原告は、その理由の説明を被告に求めた。奥泉係長は口頭で「本年5月6日付通知書による。」と答えただけで、事由の説明はなく、一方的な宣告のみであつた。
二、右、通知書(甲5号証)は「京王閣臨時従事員離職勧奨制度要綱による離職について」と題され、その内容も、就業規準第23条による登録抹消通知ではなく、地公法による免職通知でもない。離職勧奨である。原告はこの通知に対し、本年五月三一日付書留郵便(甲6号証)を以つて、大要次の如く回答した。
<1> 離職勧奨として受領したこと。
<2> 離職の意志なきこと。
<3> 原告の労働能力に欠陥がある為の勧奨であるなら、その事実を示されたい。
被告はこの原告の右の意志表示に対し何の反応も示さなかつた。原告は被告の黙示の承認があつたものと嬉び安堵していた。
三、従つて、上記奥泉係長の宣告は意外であり、晴天の霹靂、原告の受けたシヨツクは深刻であつた。
原告は低所得で、本年度都・区民税は均等割のみの賦課(甲7号証)。競輪場からの所得は年約80万円。これは原告所得の五割に当る。この収入を失つた場合、一ケ月七万円位で生活しなければならない。扶養家族は二人、妻と六十七才の妹がある。どこからも援助は受けられない。
四、原告は、心身の鍛錬に励み労働能力の維持充実に努力し、生活保護法の適用を受けることのないようにしている(甲8号証)。昭和26年京王閣競輪場に就職以来、自転車通勤を続け、現在も片道90分の行程を自転車で通勤して居り、労働能力は十分である。
五、上記、奥泉係長の6月21日の宣告に対し、地公法第49条2項により原告は急ぎ6月24日、被告宛要請書(甲9号証)を呈出。大要、次の如く説明書の交付を請求した。
<1> 本年7月開催、京王閣競輪場に従来通り就労出来るよう措置されたい。
<2> 離職勧奨制度を定年制と同様に運用、離職を強制することは、地公法第27条2項に違反する不法行為である。
<3> 労働契約は双務的なものであつて、凡て合意を前提とする。殊に、不利益処分の場合は合意が必要。問答を無用とする之までの被告の態度は前近代的である。
右、原告の要請に対し、被告は地公法第49条3項の定めに違反、説明書の交付をせず、七月開催への原告の就労をも拒否した。
六、止むなく原告は本年7月16日重ねて催告状(甲10号証)を被告に送付、概略、次の如く、被告に申し入れ、回答を求めた。
<1> 去る6月21日以来、勧奨制度に基くとして被告は原告に対し、出勤票の交付を停止。原告の就労を阻止している。この措置が法律に基く行政処分であるなら、その規定を示して貰い度い。
<2> 勧奨制度による措置は、単なる事実関係で行政処分ではない。又、単に出勤票の交付をせず就労を阻止することは就業規準の規定にもない。
<3> 原告は被告創業以来の従事員で、永年勤続20年の表彰も受けている。その原告に対し、甚大な不利益となり権利の侵害にもなつている。被告今回の措置には、被告の立場からは十分な法律的根拠がある筈。それを示され度い。
<4> 被告の措置が合理的・合法的であることがわかれば原告は潔ぎよく離職する。
<5> 争いを避けたいので右の如く催告する。問答を無用とせず回答されたい。
この催告に対しても就業規準、地公法第49条3項に違反し、被告は説明書の交付をしないのみか、全く何の意示表示もしない。
(被告の本案出勤停止処分は不法行為、無効である。)
一、被告は地方公共団体であつて、その職員である管理者は地方公務員である。一般民間人より憲法を始め、諸法規を遵守すべき立場にある。
二、然るに、原告に対する本案出勤停止処分は、自から定めた就業規準に違反する不法行為であるに止まらず予告なき実質的免職処分は解雇権の乱用で民法第1条3、627・628・709条及び債権法上の信義・誠実の原則等にも背くものである。
三、又、被告の原告に対する労働権(憲法27条)、賃金所得を得る道を断つたことは生存権(憲法25条)の侵害であると共に労基法第1条の違反でもある。
四、原告は本案関連の事項について六通の文書を被告に呈出したが、そのいずれにも、何の回答・意志表示をしない。このことは地公法第49条、及び就業規準等に違反するのみでなく、現・社会の人間関係としては容易に見ることの出来ない原告への君臨であつて、原告の人格権(民法710・711条)を認めない侮辱であり不法行為である。
五、以上の如き原告に対する被告の対応は民法90条に抵触するものである。
被告が原告に加へている出勤停止処分は上述の如く甚しく極端な不法行為であつて、無効である。
よつて、原告・被告間には出勤停止処分以前の労働契約が継続しているのであるから、賃金(一時金を含む)に対する請求権並びに不法行為にもとずく損害賠償請求権として、被告に対し、本年七月及び八月開催期間中の賃金、合計壱拾壱万五千弐百円也(甲11号証)の金員及び之に対する訴状送達の翌日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いと、出勤停止処分無効確認を求めるため、本訴提起に及ぶ次第である。
(付記)
本案に表示した日給八、二三〇円は、昭和五一年以来、据置かれている賃金額であつて、原告は、これを不法行為として被告と争つている。
当初、昭和五二年(ワ)一三〇一号賃金支払請求事件として八王子支部で扱われ、昭和五五年十二月、本庁回付となり、昭和五五年(行ウ)第一二二号事件として、民事19部扱いで、裁判進行中である。
上記、賃金の額は暫定的、現日給であつて、判決により確定する。従つて、原告勝訴の場合は、判決による賃金額の請求権のあることを、ここに意志表示する。
(別紙)
意見書
第一申立の趣旨に対する答弁
本件申立を却下する。
との裁判を求める。
第二申請の理由に対する答弁
申請書には具体的理由が述べられず訴状を援用しているので訴状の請求原因に対する答弁を以つて本申立に対する答弁とする。
一 「当事者欄」第一項は認める。
二 同第二項は認める。
三 「原告の分限、勤務条件の基準その実体等について」欄第一項中「被告の企業に任用されている企業職員」との点、「永年に亘り期限の定なく継続して任用されている正規の従事員である」との点「昭和二六年五月任用され」との点「労働協約に基き被告に任用された」との点、「原告は東京都営のとき期限の定なく継続して任用され、被告の企業に於ても創業時から継続して任用され」との点はいずれも否認する。
その余は認める。
四 同第二項中証拠関係の記述を除き否認する。
五 「事由を示さない出勤停止処分」欄第一項中「昭和五七年六月二一日出勤票を交付しなかつた」事実のみ認め、その余は争う。
六 同第二項は争う。
七 「地公法第四九条二項……」欄第一項中「奥泉係長は口頭で本年五月五日付通知書によると答えた」との事実は認め、その余は否認する。
八 同第二項中申立人が本年五月三一日付書留郵便で回答した事実及びその要旨は主張のとおりであることのみ認め、その余は否認又は争う。
九 同第三項中申立人の競輪場からの所得が年約八〇万円であることのみ認め、その余は争う。
十 同第四項は争う。
十一 同第五項中申立人がその主張する要旨の説明書の交付を請求した事実は認め、その余は否認又は争う。
十二 同第六項中、申立人主張の頃、その主張する要旨の催告状が出されたこと、之に対し被申立人は回答しなかつた事は認めるも、その余は争う。
十三 「被告の本案出勤停止処分……」欄第一項中「被告は地方公共団体である」こと、「管理者が公務員である」ことは認めるも、その余は争う。
十四 同第二項乃至第五項はいずれも争う。
第三被申立人の主張
一、申立人は、被申立人の行なつている競輪事業が、地方公営企業法に基ずく事業であるかの如くに主張するが誤りである。
被申立人が地方公営企業法上の企業でないことは同法第二条の規定に照らして明らかである。
二 (一) 被申立人は競輪事業を行なうについて正規の職員を雇用している他、従事員と称する臨時職員を採用する。
従事員は現在は登録従事員と応援従事員の二種類であるが、いずれも、競輪開催の都度、日々雇用して就労する。
従つて、一日の就労が終れば雇用関係も終了し、当事者間に何等の法律関係も存在しない。
一開催は準備日(前検日とも言う)を入れて七日であるが、之を区切つて開催することも、通して開催することもあるが、いずれにせよ翌日、被申立人が雇用の意思を有する時は出勤票を交付し、これを受けて従事員が就労を希望すれば当日出勤票を提出して就労する。次開催についても、当事者の意思は右と同様の方法で処理される。
(二) 従事員は、開催日に、被申立人との間に雇用関係が存在する限りにおいて地方公務員法第五七条の単純労務に服する一般職の地方公務員たる地位を有する。
従つて、出勤票の交付を受けても就労を希望しない場合、非開催日、出勤票の交付を受けない場合は、いずれも雇用関係が存在しないから右の身分を有さない。それ故、被申立人の事業に就労しない日に他の公営競走事業に雇用されたり、民間企業に就労したりしても、地方公務員法第三八条の兼職禁止に低触することがない。
(三) 申立人は、昭和五七年六月二一日の競輪開催終了まで、開催日に就労していた限りにおいて右の地位を有していたことはある。
しかし、右日時以降出勤票を交付せず、従つて、申立人が就労した事実もないから、現在、前記身分を有していない。
申立人と被申立人との間には現在雇用に関する一切の法律関係は存在しない。
(四) 申立人の身分及び被申立人との関係は右のとおりであるから、地方公務員法第二九条の二により、同法第二七条第二項、同法第二八条第一項乃至第三項の分限、懲戒に関する規定は適用されない。
三 (一) 行政事件訴訟法第二五条第二項による執行停止の前提として、被申立人による行政処分が存在しなければならない。
申立人は、「出勤票の交付をせず…………出勤、就労不能の処分を行った」、「出勤票の交付を停止、原告の就労を拒否している」と主張している。要するに出勤票の交付をしないことにより、就労できないことを主張するものであると解せられるから、出勤票の不交付を処分と解しているものの如くである。
しかし、出勤票の不交付は、雇用関係が終了した時点で、翌日の、又は次開催節の日々雇用の雇用契約締結の意思のないことを将来に向つて示したものにすぎないのであるから、それは如何る意味においても行政処分ではあり得ない。
従つて、申立人の本件申立は前提を欠くものであること明らかであるから却下を免れない。
(二) 仮に右出勤票不交付が行政処分であつたとしても行政事件訴訟法第二五条第三項によつて本件申立は却下されるべきである。
(イ) 前記したおとり、出勤票の交付、提出によつて日々雇用関係が成立しても、その日の就労が終ることによつて、右雇用関係は消滅する。従つて、以後、申立人と被申立人との間には何等の法律関係も存在しない。
そして、申立人は、右出勤票の交付を要求する具体的法的権利を有さず、被申立人においても、出勤票を交付すべき法的義務を有していないのであるから、当事者間において、何等の法律関係が存しない、という状態は変更されることはない。
かような点から言っても、出勤票不交付が処分であると仮定しても、その処分は有効適法であつて、申立人は本案訴訟において勝訴の見込みはない。
因つて、本件申立は却下せらるべきである。
(ロ) 仮に前記処分が取り消されることとなると、被申立人は出勤票の交付を強制され、申立人は就労可能となるが、その結果は被申立人に与える影響が大であり、公共に反する結果を招来する。
(a) 被申立人は登録従事員の四分の三以上を以つて組織されている東京競輪労働組合との間で昭和五六年一〇月一七日、定年制に関する労働協約を締結した。
右協約の効力は申立人にも及ぶものである。
右協約は、名称は「京王閣競輪臨時従事員高齢者離職勧奨制度要綱」となつているが実体は定年制で、六五歳を以つて定年々齢と規定している。
この制度において、昭和五〇年一二月制定の離職勧奨制度要綱(旧制度)による離職に応じなかつた者は、<1>昭和五六年一二月三〇日から六開催再雇用するが、賃金は持賃金とする<2>右日時から、年齢に応じ三開催乃至一一開催再雇用するが賃金は六、〇〇〇円とする、のいずれを選択するかを申出ることが規定されている。
右に基ずき、勧奨対象年齢に達し且つ、昭和五〇年の離職勧奨制度により離しなかつた者八〇名の内、申立人を除く七九名が選択申出をなした。そこで申立人については右<1>の申出があつたものとして扱うのが申立人に利益であるのでそのように扱い、この再雇用期間が満了した本年六月二一日以降出勤票を交付しなかつたものである。
従つて、前記処分が取り消されれば右申出をなした従事員が申出の撤回をする等定年制度の実施を困乱させるばかりか、今後、定年々齢に達した者も離職に応じず、定年制を根底から否定することになると同時に、労働協約の効力をも否定することとなり、今後の労使関係の円満な遂行を阻害する結果となる。
(b) そればかりか、競輪事業収益が人件費に益々圧迫され、地域住民に対する諸福利厚生施設、教育施設等の充実がなし得なくなり、且つ、老齢従事員の増大で公正、安全な競走を実施することも困難となる。
かくして公共の福祉に反する事態となること明らかである。かような点からも、本件申立は却下せらるべきである。
以上